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広島高等裁判所 昭和26年(う)102号 判決

控訴人 被告人 趙[金庸]変

弁護人 長岡時光

検察官 大町和左吉関与

主文

原判決中酒税法違反被告事件に関する部分を破棄する。

本件中酒税法違反事件についての公訴を棄却する。

本件中食糧管理法煙草専売法違反被告事件に関する控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は別紙控訴趣意書と題する書面に記載の通りである。

第一点は酒税法違反事件については告発が訴訟条件であり又告発の前提として通告処分が必要であるのに、本件中酒税法違反事件については通告処分をなした形跡もなく、又告発書はあるけれども犯則事実の記載がないので告発は無効であるから、原審は公訴を棄却すべきであつたのに拘らず不適法な起訴に基いて有罪の判決をした違法があるというのである。

然し乍ら、通告処分は必ずしも必要ではなく、直ちに告発をすることの出来る例外の場合が認められていることは国税犯則取締法第十三条第十四条の定めるところであるから、通告処分がないという一事を以て直ちに告発が無効であるということは出事ない。本件酒税法犯則事件の告発書には告発の理由が具体的に明示してない憾みはあるが「国税犯則取締法第十三条第一項により」とあるので、同法第十三条第一項第一号乃至第三号の中のいづれかの理由によつて通告処分なしで直ちに告発をしたものであることが認められるので、此の点の論旨は当つていない。

次に右告発書には「左記の者酒税法犯則事件につき国税犯則取締法第十三条第一項に依り告発致します」とあり罪名、該当法条、証拠物件、嫌疑者の住所氏名職業年齢が記載してあるだけで犯則事実の記載は全然ない告と論旨に指摘の通りである。そして告発とは犯罪者及被害者以外の第三者から捜査機関に対し犯罪事実を申こして訴追を促す行為であるから、如何なる犯罪につき訴追を促すものであるかを示さない右告発は告発としての効力がないものと解すべきである。

尤も本件記録には酒税法違反事件に関して収税官吏作成の書面として前記告発書の外に臨検捜索顛末書、差押顛末書、鑑定書、質問顛末書があるので之等の書類の記載を総合すれば犯則事実の大要を知ることが出来ないことはないが、前記告発書には犯則事実記載の欄さえ全然ないのは勿論「参考事項」「添附書類」の欄にも何も記載してないのであるから、右質問顛末書等の各書類を以て右告発書と一体をなすものであるとか或は之等に記載の内容を以て告発書の犯則事実の記載に代るものであると認めることは到底出来ないので、前記告発は矢張り無効のものと断ずる他はない。間接国税犯則事件につき国税局長又は税務署長の告発が訴訟条件をなすものであることは云う迄もない。

従つて酒税法違反事件についての本件起訴は不適法のものであつて原審としては刑事訴訟法第三百三十八条第四号によつて公訴棄却の判決をすべきであつたのに拘らず有罪の判決をした違法があると云わねばならない。論旨は理由がある。

それで刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十八条第二号により原判決を破棄した上同法第四百条但書第四百四条第三百三十八条第四号を適用して本件中酒税法違反に関する公訴(公訴事実――被告人は政府の免許を受けないで肩書自宅において一、昭和二十五年十月初旬頃米麹約二斗、麦約一斗、小麦粉約一斗、水約三斗を原料として、三斗桶一個に仕込み醗酵させ之を蒸溜して焼酎約二斗七升を製造し、二、同月二十二日頃米約五升、米麹約五升、水約一斗を原料として四斗入桶一個、二升甕一個に仕込み醗酵させて濁酒醪約二斗二升を製造した)は之を棄却することとした。

第二点は本件食糧管理法違反竝に煙草専売法違反の罪につき原審の科した刑は重きに失するというのである。

然し乍ら、食糧管理法違反の罪については前科調書の記載で明らかなように被告人は、昭和二十四年十二月十二日に同様の罪で罰金二千五百円に処せられたことがあるにも拘らず更に本件の罪を犯したこと煙草専売法違反の罪について被告人は本件葉煙草を持つていて逮捕された時それは妻の父の法要の為大阪に行く積りでいたのであつて煙草は妻の母えの土産にする為のものだつたと弁解しているけれども「葉煙草が入手出来たので出掛けたのではないか」との原審判事の問に対し答えていないのを見ると右弁解は必ずしも措信出来ないこと、所持していた葉煙草、輸送した精米の各量その他諸般の情状を考えて原審の科刑は重きに失するとは云えない。論旨は理由がない。

それで刑事訴訟法第三百九十六条に従つて、本件中食糧管理法違反及び煙草専売法違反の被告事件についての控訴は之を棄却することとした次第である。

(裁判長裁判官 柳田躬則 裁判官 藤井寛 裁判官 永見真人)

控訴趣意

第一、原審判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続上の違法が存する。

酒税法違反事件は告発が訴訟条件であるから告発がないか或は不適式のものであつた場合には告訴棄却の判決をなすべきものである(明治三五年六月三〇日大審院判例参照)。国税犯則取締法第一四条第一七条によれば間接国税に関する犯則事件ありたるときは犯則者に通告し犯則者が通告を受けたる日より七日以内に履行せざる時初めて告発の手続をなすべきことを規定して居るに拘らず一件記録に徴するも該通告をなしたる形跡は毫も発見出来ない。従つて本件告発は無効のものと謂わなければならぬ。

次に告発自体に就てであるが記録四三丁に告発書と題する書面はあるにはあるが該書面には罪名、該当法令条項、証拠物件、嫌疑者住所氏名のみ記載してあつて犯罪事実の記載は全く欠如されて居る。告発書に犯罪事実の記載を欠く場合は該告発書は事実を具体的に確定するに由ないからして適式の告発書としての効力はないものと断ぜざるを得ない。果して然らば公訴提起の手続が不適式の告発に基きなされたものであるから之に対しては須らく刑事訴訟法第三百三十八条に則り公訴棄却の判決をなすべきに拘らず原審は酒税法違反事実(判示第三事実)に付有罪の判決をなして居るので訴訟手続上の違法を犯したこととなる。而してこの違法が判決に影響を及ぼすことは白明の理である。

第二原審判決は次の事情に照らし刑の量定重きに失し不当である。

(一)本件食糧管理法違反の米は自家消費用のものであり煙草専売法違反の葉煙草は妻の里に土産にするため所持して居たもので共に販売の目的ではない(第二回公判調書)。

(二)被告人は月収七千円で家族四人を扶養しその上病気療養中の兄の生活もみてやらねばならぬ状況にあり多額の罰金を課することは苛酷である(第二回公判調書)。

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